1997年に途中まで書いていた小説。
プロットは頭に残っていたので、AIに続きを書かせる。
おかしな部分を修正し、終わり方を自分流にして完成。(カム作)
輪廻
電車がブレーキ音を発しながらホームへ入ってくる。
日の丸の旗に見送られながら、良子の夫の浩二もこちらに一礼して、薄暗い扉の向こうへと歩いていった。
低い男のアナウンスがホーム全体に響き渡ると、電車の扉はゆっくりと閉まり始めた。
「良子……元気でな」
ガラス越しに浩二がそう言っているのをはっきりと見た良子は、少し涙を流した。
電車が見えなくなるまで見届けると、良子は階段を1段ずつ降りていった。
平成25年10月25日のことだった。
ある朝、良子は悪夢で目を覚ました。
その悪夢とは、浩二が戦場で銃撃され、血の中に倒れるというものだった。
良子は胸を押さえ、苦しげに呼吸を繰り返した。
「浩二……」
その日も病院の定期健診があった。
「順調ですよ。赤ちゃんはすくすく育っています」
担当の医師がにこやかに言うと、良子はお腹にそっと手をあてた。
「……あの、男の子でしょうか?」
「まだ確定はできませんけど、元気ですよ。それより、お母さんがちゃんと休まないと」
「はい……ありがとうございます」
しかし、その日から、また悪夢を見るようになる。
今度はお腹の子が冷たくなっていく夢。
そして、それを見つめる自分。
夢の中で良子は、なぜか「さよなら、ぼく」と誰かが呟く声を聞いた。
その言葉が、妙に現実味を帯びて胸に残った。
戦況は悪化し、やがて日本が敗北したという報せがテレビを通じて全国に流れた。
「日本が戦争に負けました」
画面の中のキャスターは、言葉を噛み締めるように伝えていた。
良子は、息が止まりそうになった。
その瞬間、なぜかお腹がきゅうっと締めつけられたように痛んだ。
ほどなくして、1本の電報が届く。
“浩二、戦死。異国の地にて銃弾を受け、即死。”
その文面を読み終えたとき、良子は声も出せず、床に座り込んだ。
だが、何故かお腹の中から、意志のような温もりを感じた。
良子は無意識に、お腹に手をあてていた。
数ヶ月後、出産の日。
分娩室で、良子は叫び、祈り、そして――命を産んだ。
産声が響いた瞬間、良子は静かに涙を流した。
医師が赤ん坊を抱きかかえながら微笑んだ。
「男の子ですよ。とても、強い子です」
良子は、赤ん坊の顔を見た。
まるで昔の浩二がそのまま小さくなって帰ってきたような、不思議な感覚。
そしてその目――。
ほんの一瞬、赤ん坊の目が良子をじっと見つめると、かすかに微笑んだように見えた。
赤ん坊は浩二と名付けられた。
15年後――。
春の陽気が家を包む午後。
良子は庭の縁側に腰をかけ、湯呑みを手にしていた。
年を取り、髪も白くなったが、目の奥の光だけは変わらなかった。
玄関が開く音がして、足音が廊下を進んでくる。
そして聞き覚えのある、優しい声が響く。
「ただいま、良子」